
深草の竹林
深草の放置竹林問題
深草と竹の深いつながり
私たちが学ぶ龍谷大学の近くには、伏見稲荷大社があり、多くの観光客で賑わっています。伏見稲荷大社は稲荷山に鎮座していますが、稲荷山の裾野には竹林が広がっています。深草地域では、古くから竹が自生していたと考えられます。江戸時代後期に描かれた「都名所図会」ではマダケが描かれています。
では、なぜ深草でモウソウチクの竹林が形成されたのでしょうか?深草の農家さんへの聞き取りによれば、戦後に食料確保のためにモウソウチクが植えられたとのことです。深草地域には、今もタケノコを栽培する農家がいます。深草と竹林は昔から深いつながりがあったのです。

京都市の竹林
現在、京都市域全体には約 660 ヘクタールの竹林が存在しています。西の大原野・大枝、東の深草は京タケノコの産地となっています(京都市特産物サイト)。しかし、京都市によれば、現在では京都市域の竹林の約 4 割前後が「管理が行き届かず放置されている竹林」になっています。
竹林が放置される原因
深草地域の放置竹林問題は単一の原因によるものではなく、複数の要因が重なりあった結果として発生しているといえます。
第一に竹林の利用形態の変化、第二に竹の特性による影響、第三に竹林管理の担い手不足という三つの要因が相互に関係しながら増加してきたものと考えられます。

第一の原因として、竹林の利用形態そのものが変化したことが挙げられます。
深草はタケノコの産地であり、食用タケノコを得るための重要な農地として竹林が維持されてきました。
竹は一般的に食用のほか、建築材、農具や民具(カゴなど)の素材として使われてきましたが、酒樽のタガの材料、あるいは寺社の行事にも使われてきました。竹林は様々な場面で生活資源としての役割も果たしていたのです。

深草地域の竹林もまた、農業生産と生活の双方を支え利用される資源として、地域の暮らしに組み込まれていました。
しかし、食生活の変化に伴うタケノコの消費量の減少や、安価な輸入タケノコの普及などにより、タケノコの販売価格低下により多くの農家がタケノコ生産に魅力を感じなくなり、次第にタケノコ生産が縮小していったと考えられます。

また、昭和中期頃からプラスチック製品が普及し、海外から安価な輸入竹材が流入しました。
これにより、それまで日常生活に欠かせない身近な存在であった竹を、資源として使う習慣そのものが地域から薄れていきました。
竹を伐る、運ぶ、加工する、といった竹の生産・流通を担ってきた竹関連産業は縮小し、担い手が失われてきたと言えます。
深草の竹林も、竹林整備を行うことへの経済的な動機や生活上の必要性が生じにくい状況になっています。
竹は「利用される資源」から「利用されない厄介者」へと変化しつつあります。
こうして竹林の利用価値の低下と管理主体の減少が重なり、深草では竹林が放置される構造が形成されたと考えられます。

第二の原因は、竹の生態的特性による影響が挙げられます。
竹は成長が早い植物で、わずか 2~3 年放置しただけで、竹林は真っ暗でうっそうとした状態になります。
10 年もすると、人が立ち入ることすら難しくなってしまいます。
手のつけられなくなった竹林を元の状態に戻すのは、たいへん困難です。

第三の原因は、竹林管理の担い手が不足していることです。
単なる高齢化・人口減少ではなく、深草の地域特性が大きく関わっています。
深草地域は交通の便がよく、市街地に近いため、近年では新興住宅が増加しています。
丘陵地に広がる小規模農家が多い地域であり、農地は細分化されています。
この地形と土地利用の特徴から、竹林管理は機械化が難しく、伐採や搬出を人力に頼らざるを得ないため、作業負担が大きいという構造的な制約があります。

深草地域の農家では兼業による営農が 基本で、竹林管理は本業の合間に行う副次的作業であることが多いそうです。
若い世代が竹林管理を生活の中心として受け継ぐ必然性が弱く、農家の高齢化が進むにつれて管理主体が急速に減少していると考えられます。
こうした地域固有の地形的条件、兼業構造、作業負担の大きさなどが重なった結果、深草地域全体の人口は大きく減ったわけではないにもかかわらず、竹林管理の担い手が減り、放置竹林の増加へとつながっています。

竹林が放置されると何が問題か
人間が竹を切らずに放置すると、竹は密生します。竹は成長が早く、毎年地下茎からタケノコを出して数ヶ月で20メートルにまで成長します。
うっそうと茂った竹林の竹は、光を求めて明るい方へ水平方向に地下茎を伸ばすので、他の植物を圧迫します。さらに周辺の農地や住宅地の地下にも地下茎が伸び、竹林が拡大すると、住民の生活にも悪影響が生じる可能性があります。
放置された竹林には人が立ち入る機会が減るため、ごみの不法投棄をしやすい環境となり、景観悪化、環境悪化につながります。
また、放置竹林は野生動物の隠れ家となり、人里への侵入を助長するため獣害の増加につながる可能性があります。 竹の地下茎は地表の浅いところで広がるため、地盤が緩みやすく斜面における防災機能が低下すると言われています。

竹の力を活かす暮らしを
これまで、深草地域では竹林の活用を広げるために様々な活動が取り組まれています。京都市やNPOにより、タケノコ掘り体験、竹林整備ボランティアの育成、また竹林に生える「キヌガサタケ」の栽培実験などが試みられています。深草の竹を生かす魅力的な活動によって、参加者を広げ、地域全体の関心を高める活動が必要です。

現在、深草地域では、モウソウチク林の一部をマダケ林へ転換し、マダケの用材を生産することによって、農家による持続的な竹林管理を目指し、「深草真竹を創生する会」と京都市等との連携による取り組みが進められています。兼業農家でも営業可能な経済的持続性をもった「続けられる営農スタイル」の確立を目的とし、深草をタケノコだけでなくマダケの産地とすることを目指しています。

活動 3 年目の2025年12月現在、試験地で植樹したマダケの活着を確認し、引き続き複数箇所での活着を試験中です。植樹が完了するまでが大きなハードルですが、2024 年に苗竹 30 株を植樹し、2025 年は 100 株を植樹しました。段階的に大規模な植樹を行いマダケ林の完成を目指しています。龍谷大学政策学部「地域課題発見演習」でもこの活動に参加し、マダケの定植試験とモウソウチクの伐採時期検証、竹をチップ化し肥料に戻す循環づくりを行いました。 一方で、現在生えているモウソウチクを伐採する作業も、当面は必要となります。

そこで「地域課題発見演習」では、放置竹林問題を解決するためには以下の「6 つの活動分野」が必要だと考えました。
①⽵を伐る⼈を増やす仕組み
②⽵に精通したプロ⼈材の育成
③⽵材の活⽤と活動の拡⼤
④⽵の魅⼒を伝えるプロモーション活動
⑤⽵(モウソウチク)を枯らす技術の研究
⑥たけのこの活⽤や普及

竹を現代生活の中で活用し、持続的に竹林を管理するには、⽵林整備作業そのものにとどまらず、産業・観光・教育など幅広い領域と重ね合わせた取り組みが必要となります。多角的に竹林を捉え、行政、土地所有者、生産者・事業者、NPOなどが連携した活動が重要であると考えています。 ※本ページの記載は、「地域課題発見演習」2025年度受講生が、参考文献や関係者への聞き取りを通して理解した内容に基づいています。